( ^ω^) はあそびにんのようです
- 11 名前:巻頭言 :2006/08/30(水) 00:03:55.38 ID:E3HIbidn0
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御目は異なる夜をご覧じ、
御耳は天降る歌を聴き、
御手は時の河より星を掬わん
―― イシス王の賛歌碑
- 12 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:08:21.84 ID:E3HIbidn0
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ロマリアの南 ――
歓楽の不夜都市アッサラームから、西へと三日、馬を走らせる。
すると、どうなるか。
世界が唐突に一変する。
水を失い、あばたを葺きだす大地。消え始める動植物。
むき出しの岩肌を赤く染め、傾斜を深める遠くの山々。
程なくして、巨岩が立ち並ぶ悪路が現れる。
それこそが、果て無き砂海の入り口であった。
砂漠の顔は二つある。
まず、灼熱と極寒が支配する不毛の砂地。これは悍婦と言うほかない。
旅人を意のままに沿わせ、従わねば死の接吻を賜るのだ。
馬は役に立たぬから、駱駝に乗り換えなければならない。
水袋は過ぎる程に用意する。
顔布を付け、通気の良い麻服に着替える。
鉄の鎧などは言語道断。焼けた鉄は、旅人の肉を強烈に炙るだろう。
これが砂漠の第一の顔だ。
そして、今日もまた ―― その悍婦に弄われた者が一人。
- 13 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:09:14.55 ID:E3HIbidn0
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? 「――… ぷはッ!」
茜に波打つ砂海の上を、落ち行く太陽が滑る。
夕暮れである。
空に日輪が蕩ける。染み出した真紅が、砂岩を血塊にも似せる。
そして、湖は ――
? 「ふう――… たまんねえな、ゴルァ」
水面を割った腕に、黒々とした静寂を乱された。
再び水中へと没したのは、体格のよい、少年であった。
遠慮の無い仕草で水を掻き分け、泳ぐ。
飛び散る飛沫は澄明だった。血と言うには、いささかさばけて毒が無い。
- 14 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:10:50.66 ID:E3HIbidn0
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ここは死の砂漠に点在するオアシスの一つ。下生えとナツメヤシに覆われた、希少な緑地である。
少年の、大きな欠伸がのどかに響いた。
ざんばらの髪を乱暴に洗うと、犬猫がそうするように、身を振るわせて水滴を飛ばす。
? 「然し、ひでえとこだぜ。住んでる奴らがいるなんざ、信じられねえ」
少年の悪態も無理からぬ事だった。
風に煽られた粒子は、全てのものを侵食する。人間とて例外ではない。
鼻や耳に入り込んだ砂をこそぎ落とし、水際に置かれた剣へと手を伸ばす。
異音が走った。
ため息と共に鞘を逆さまにする。音もなく零れた砂は、掌に小さな山を作った。
風に払われていく砂礫を苦々しげに見やると、少年は、漸く水から上がった。
- 16 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:13:38.61 ID:E3HIbidn0
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ねっとりと燃える焚き火に、大蜥蜴が炙られていた。
表皮は既に炭化しているが、油が今だに滴り落ちている。
身に蓄えた脂が相当に多いのだろう。
まず、炭化した部分をこそげ落とす。すると鶏に似た肉が現れる。
一片削いで口に放り込む。顎を押し戻す繊維質な感触と、多すぎる脂に辟易する。
だが、食えぬ程ではない。
咀嚼を繰り返しつつ、荷を広げようとした刹那 ――
前方の丘陵が、白濁する砂煙を撒き上げた。
- 17 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:15:05.91 ID:E3HIbidn0
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◇
「―――、、 ……!!」
「……!! …、 ……!!」
怒号であった。
異国の言葉が、痛烈な響きを以って、仰臥した彼の耳を殴打する。
細かな意味など知らぬ。だが、罵倒や雑言であることは分かる。
? 「あわわ、あわわわだお……!もういやだお……!!」
彼は、泣いた。
後ろ手に縛られ、幌車の後ろに転がされ、体中が痛みを訴えている。
? 「どうして僕だけこんな目にあうんだお!!うおおおおおん!!」
彼は、むせび泣いた。それと同時であった。
大きく幌車がバウンドした。
浮遊感。
ほころびかけた紐は、その重みに耐え切れなかった。
? 「―――… ッあおおおおおおおおおおおおおおん!!」
長い悲鳴が、偉大なる砂の海に残響する ――
- 19 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:17:22.94 ID:E3HIbidn0
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◇
? 「―― な、んだ、ゴルァッ!!」
少年を叫ばせたのは、驚きだ。
月明かりに浮かぶ抗争 ――
幌者を繰る御者と、その護衛に襲いかかる騎兵。
? (…… 賊、か!?チッ――… こっちに気づくなよ、面倒はごめんだぜ!)
だが、その希望はあえなく砕かれる。
暮れ終えた空、広大な砂海。赤と燃える焚き火を隠す物は、何もなかった。
- 21 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:18:45.54 ID:E3HIbidn0
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? 「――… うおッ!!」
音もなく飛来した矢が、炎を射よと降り注いだのである。
頬を削った一本がヤシの幹をずぶりと冒した。
理性が、煮沸する。
激昂が瞬く間に、少年の隅々までを覆った。
下穿きに一つに剣を携え、盾のみを引き掴み、駱駝の腹を蹴る。
焚き火の照らす範囲から逃れ、少年は、闇にまぎれて砂を翔った。
? 「仕掛けてきたのは、そっちだからな……ゴルァ!」
その、直後。
幌車が進路を変えようとして、大きく後輪をバウンドさせた。
- 22 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:19:59.85 ID:E3HIbidn0
-
◇
? 「あ、あうあう・・・・・・・・・・・・」
死んだ。完全に死んだ。童貞のまま、一生を終えた。
ああせめて、死ぬ前にもう一度、巨乳の剣士に会いたかった……
そう、彼は思った。
が ――
? 「あ、あれ?痛くないお……」
砂に埋もれた上半身を起こす。
その目が捕らえたのは、額をぱっくりと割られた男の顔。
? 「――… ヒ、ヒィィッ!!」
- 24 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:22:20.29 ID:E3HIbidn0
-
絶叫。
恐怖。
そして、既視感。
前にもこんな事があった。確かにあった。
あの時はどうなったか。そう、すぐに ――
? 「おい、しっかりしろ!お前 ――」
助けが、
? 「 ―― 砂海の、部族か!?」
―― 来たのだった。
- 25 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:24:49.71 ID:E3HIbidn0
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◇
舌が強張る。息が出来なかった。
目の前の現実に、理解が追いつかない事はある。
ある筈の物がない。または、その逆も然り。
幌車から投げ出された人影は、生きていた。
柔らかな砂地が幸いしたのだろう。
少年が驚いたのは、だが ―― その事ではない。
( ;゚Д゚) 「ブーン!?お前ッ、 なんでここにッ……!」
無い筈の物があった事。
いる筈のない人間がいる事に、彼は驚愕したのだった。
少年…ギコ、そしてブーンは、顔を突き合わせたまま、凍りついた。
- 26 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:25:46.28 ID:E3HIbidn0
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( ^ω^) 「ギ、ギコッ!後ろだお!!」
沈黙を破ったのはブーンの叫び。
ギコは、振り向かなかった。
剣気が走るやいなや左へと跳ぶ。
飛び込んできた男へ、
一撃。
勢い良く振り抜いた柄尻が、男の喉笛に埋まっていた。
倒れ付す男には目もくれぬ。
ブーンを戒める縄を一息で切り裂くと、当惑を浮かべて黙り込むが ――
- 29 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:27:25.47 ID:E3HIbidn0
-
( ゚Д゚) 「チィッ!! おしゃべりは、後だ!!」
幌の影から、今一人が跳躍した。
噛み合わぬ剣が火花を散らす。
砂漠の剣は湾曲していて、つばぜり合いが出来ないのだ。
( ゚Д゚) 「ッたくテメエは―― 疫病神かよッ!!」
( ^ω^) 「ギコはやっぱり、僕のひみつ道具だお!!」
同時に叫ばれた言葉は真逆。
アリアハンの少年達は、今 ―― この砂海で、再会を果たしたのだった。
- 37 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:38:32.00 ID:E3HIbidn0
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◇
決着はあえなく付いた。
突然の乱入者に足並みを乱したのは、幌車側の者達である。
息があるものは一まとめに拘束され、騎兵達と激しく言い争っている。
(;-@∀@) 「――…!! ……!!」
(; ´m` ) 「……! ――…!!」
( ゚Д゚) 「・・・・・・・・・・・」
( ;゚Д゚) 「何言ってるか、全然わかんねえなゴルァ」
(#^ω^) 「放置でいいお!こいつら、何もしてない僕を、いきなり捕まえたんだお!!」
( ゚Д゚) 「……あぁ?そりゃ、お前……」
- 40 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:39:59.40 ID:E3HIbidn0
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? 「奴隷商、だろうな」
掛けられた声に、ギコは目を見開いた。
騎兵の和から外れ、一際見事な体躯を持つ男が、此方に向かってくる。
( ゚Д゚) 「……あんた、共通語、喋れんのか」
? 「ちょっとした縁があってな。助かったぞ、少年」
( ^ω^) 「ところで、奴隷商、ってなんだお?」
訝しげに問いかけるブーン。赤く摺れた手首に息を吹き掛け、ギコの後ろから御者達を睨み付ける。
? 「知らんのか?文字の通りだ。まつろわぬ民の村だとか、旅人を襲って、奴隷として売りさばくのさ」
( ^ω^) 「……じ、冗談はよしてくれお!!人間を売り買いだなんて……」
? 「おいおい…… まさか知らないで、この砂漠に来たのか?」
- 41 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:42:06.26 ID:E3HIbidn0
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ハッ
そう思ってると
突然その男は僕の見ている目の前で
フードの紐を
はずしはじめたのだ・・・!
- 43 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:42:40.02 ID:E3HIbidn0
-
〃 i, ,. -‐
r' ィ=ゝー-、-、、r=‐ヮォ.〈 /
! :l ,リ|} |. } / .と そ
. {. | ′ | } l ん い
レ-、{∠ニ'==ァ 、==ニゞ< | だ つ
!∩|.}. '"旬゙` ./''旬 ` f^| | 野 は
l(( ゙′` ̄'" f::` ̄ |l.| | 郎
. ヽ.ヽ {:. lリ | だ
. }.iーi ^ r' ,' ノ な
!| ヽ. ー===- / ⌒ヽ |
. /} \ ー‐ ,イ l |
__/ ‖ . ヽ、_!__/:::|\ ヽ
- 44 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:43:17.37 ID:E3HIbidn0
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( ^ω^) ゚Д゚) 「ウホッ……!」
いい男、であった。
- 45 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:43:53.19 ID:E3HIbidn0
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| "゚'` {"゚`l 「俺はアべ。 捕らえられた村の者を追っていた」
男は、幌の中から助け出されてゆく、女子供を示す。
| "゚'` {"゚`l 「ほら、お前も礼を言いなさい」
マントの裾が翻った。
たっぷりとした布に隠れていたのだろう。そこには、小さな娘がいた。
(* ・ー・) 「……」
ブーン達を上目づかいに見上げた後、
(* ・ー・*) 「……、、」
頬を染めて、アベの後ろに隠れてしまう。
- 46 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:44:34.50 ID:E3HIbidn0
-
( ゚Д゚) 「……プッ」
思わず、ギコは笑った。なんとも微笑ましい光景だった。
下穿き一つの自分だが、男達の服装もそう変わらない。砂の民は肌が強いのだ。
危なかったなとブーンを見やり ――
- 49 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:45:11.47 ID:E3HIbidn0
-
、 ヽ
|ヽ ト、 ト、 ト、 、.`、
/|l. l. | |l l | | l |l.| |l. l
/' j/ ノ|ル'/レ〃j/l |
-‐7" ヾー---┐|_.j
 ̄ ./゙ニ,ニF、'' l _ヽ
:: ,.,. |ヽ 」9L.` K }.|
l' """ l ) /
h、,.ヘ. レ'/
レ′
r.二二.) /
≡≡ ,イ
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::::::` ̄´ / !ハ.
- 52 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:48:09.63 ID:E3HIbidn0
-
( #゚Д゚) 「おおおおおおおおいいいいいいいい!!」
ギコの痛烈な前蹴りが、ブーンの股間を襲った。
有り得ない角度で避けるブーン。
ますますいきりたつギコが、ブーンを捕らえようと砂地を蹴った。
( #゚Д゚) 「お前、何オッ立ててんだよ!!」
( ^ω^) 「違うお!!違うお!!なんだか未知の華やぎが、唐突に湧き起こった結果だお!!」
( #゚Д゚) 「どう考えても煩悩だろゴルァァァッ!!」
| "゚'` {"゚`l 「………クッ」
(* ・ー・) 「……… 、、」
が、ギコの怒声を他所に、二人はおかしそうに笑うばかりである。
- 54 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:48:41.59 ID:E3HIbidn0
-
( ;゚Д゚) 「お、おい、変態だぞ!! いいのかそれで!!」
( ^ω^) 「うはwwww笑った顔もテラカワイスwwwwwwwww」
ギコの困惑も空しく、二人に聊かの嫌悪も見られない。
性について、大らかな部族なのかもしれなかった。
| "゚'` {"゚`l 「ところで、先ほどの助力に礼をしたい。我らの村に、」
| "゚'` {"゚`l 「よらないか」
( ゚Д゚) 「いや……」
何故か一呼吸おいたアベに、ギコは首を振った。
( ゚Д゚) 「俺はイシスに用があるんだ。それ程大した事もしてねえし、気持ちだけで十分だゴルァ」
( ^ω^) 「ええええ、どうしてだお!!お礼を断るのは良くないお!!」
( ゚Д゚) 「……急ぎの旅なんだよ。すまねえが……」
- 55 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:49:21.64 ID:E3HIbidn0
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| "゚'` {"゚`l 「……女王に会いたいのなら、無駄だぞ」
- 58 名前:第一章 再会 :2006/08/30(水) 00:52:51.39 ID:E3HIbidn0
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( ゚Д゚) 「……!!」
心臓が、跳ね上がる。
なぜ ―― どうして。疑問が膨れ上がり、ほどけた緊張を、圧して絞り上げた。
固まるギコと、幼女を抱き上げたアベを、交互に見るブーン。
| "゚'` {"゚`l 「まあ……付いて来い。お前の望む話、聞かせてやれるかもしれん」
太陽はすっかりと身を潜め、砂海に夜が降る。
雲一つ無い空に、赤々とした星が煌いていた ――
(了)
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