('A`)がコンビニ店員になったようです。
74 名前:78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 00:02:09.95 ID:vNhl7XZT0
 ――――――( ^ω^)「4だお。」―――――――


夢中で街中を走り回って、少し疲れたみたいだ。
何より、体にとって必要なニコチンが切れてしまったようだ。

信号待ちで流れが止まったので、これはいい機会だと、
俺は、休憩を取ることにした。


麻子を道端に止め、近くの自販機で缶コーヒーを買う。

都合良く、すぐそばにバスの停留所があったので、
ベンチを拝借して、そこに腰掛ける。


75 名前:78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 00:04:17.13 ID:vNhl7XZT0
缶コーヒーのタブを引っ張ると、パコッと音が鳴り、タブがはずれる。

俺は、この音がたまらなく好きだ。

缶の中身を守り抜くという唯一絶対の使命を果たし、
その役目を終える最後の瞬間、
ほんの一瞬だけ、
自分の存在を示すかのように、断末魔のような音を鳴らす。
その後には、その存在を忘れ去られる。

そんなタブが鳴らすこの音が、俺はたまらなく好きなんだ。


俺には、破滅願望があるのかもしれない。
自分を嘲笑する笑みを浮かべながら、俺はタバコに火をつけた。


77 名前:78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 00:07:44.79 ID:vNhl7XZT0
西の空が、夕焼けに染まりはじめている。
吐き出したタバコの煙が、黄昏に染まりはじめた空をわたっていく。

その煙の行方を目で追っていると、
あたりの景色が見慣れたものになっていることに、俺は気づいた。

それは、三年間、毎日のように見てきた景色だった。
いつのまにか、俺は、母校の高校のすぐそばにまで来ていたようだ。


タバコの火を消し、空き缶をゴミ箱に投げ捨てると、
俺は、麻子にキーを挿入した。
セルスイッチを押すと、まるであえぎ声のように、エンジン音が鳴りはじめる。

俺は麻子にまたがり、約一年ぶりの母校に行ってみることにした。


79 名前:78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 00:08:56.89 ID:vNhl7XZT0
('A`)「・・・・・・変わらないな。」


母校の校門に着いた俺は、そう呟いた。
卒業して1年と少ししか経たないのだから、変わっているはずはない。

しかし、俺はもうここの生徒で無く、ここは、俺の居場所ではなくなった。
そんな事実が、俺の口からこんな言葉を呟かせたのかもしれない。


俺は校門の前に駐車した麻子にしばしの別れを告げて、校内に進入した。


81 名前:78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 00:10:48.45 ID:vNhl7XZT0
校門を抜けると、そこにはグラウンドが広がっている。
幸運なことに、学生の姿は見あたらない。
グラウンドを横切り、校舎内へと続く正門に向けて歩き出す。

正門のノブに手をかけ、引く。
しかし、鍵がかかっているようで開かない。


('A`)「・・・おかしいな。」


そう思って、携帯を取りだし曜日を確認すると、今日は日曜日だった。
コンビニのバイトをはじめて、曜日感覚が狂ってしまったようだ。

校内はおろか、この近辺で下校中の制服姿を見かけなかったのも、これでうなずける。
街がいつもより賑わっていたのも、日曜日だったからなのか。


しかし、日曜の夕方に学校に来る生徒もいないだろう。
校内散策には好都合。


すこしだけ、うきうきしてきた。


82 名前:78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 00:12:25.45 ID:vNhl7XZT0
この学校には校舎が二つあり、それをつなぐように中庭と渡り廊下が存在する。
その真ん中には小さな池があり、そこには生物部が育てているらしい数種類の魚が放流されている。

その池のそばに備え付けられたベンチに、俺は腰掛けた。


魚が、窮屈そうに泳いでいる。
まったくもって気の毒だ。

生き物が好きで生物部に入っているヤツがいるとしたら、そいつはすぐに退部届けを出すべきだ。
魚をこんな小さな池に閉じこめるなんて、生き物好きがすることではない。


('A`)「お前らも、海や川で泳ぎたいんだろ?」


魚たちに向かってそう呟いた。
俺って、暗い人間だな。


83 名前:78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 00:13:43.13 ID:vNhl7XZT0
('A`)「・・・・・でも、人間だって同じか。」


常識、仕事、学校、人間関係。


この魚たちのように、
俺達は、いろいろな制約に囲われた、小さな社会のなかで生きている。

時に、それを窮屈に感じることもあるが、
こんな社会に、不自由を感じたことは、俺にはない。

そんな俺のように、魚たちだって、
この小さな池のなかでの生活に、満足しているのかもしれない。


俺は立ち上がると、中庭を後にした。


84 名前:78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 00:14:44.76 ID:vNhl7XZT0
高校の敷地内をぶらぶらしていると、備え付けられた外部灯が光を放ちはじめた。
いつのまにか、あたりが暗くなり出していた。

そろそろ戻ろうかと考えていると、もっとも見慣れた場所が視界に入った。


('A`)「部室棟か・・・・。」


なるべく、近づきたくない場所だった。
部活にいそしんでいた頃の思い出が、嫌でも思い出される場所だからだ。

しかし、そんな俺の意志にもかかわらず、
体は無意識のうちに、通い慣れたこの場所に向かっていたようだ。


まったく、慣れとは恐ろしい。


88 名前:78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 00:16:32.32 ID:vNhl7XZT0
部室棟の扉の前に着くと、俺は立ち止まる。
当然だが、扉には鍵がかかっている。

俺は、その扉をただ見続けた。
扉のガラスが、外部灯を反射して、俺の姿を映し出す。

少しダメージ加工がされたジーパンに、
白地に黒のストライプが入ったシャツを着た俺の姿が、そこには映っていた。


「あんたは背が高くてスラッとしているから、キレイめな服装をした方が似合うのよ。」


高校時代、仲の良かった唯一の女友達が言った言葉だ。
それ以来、俺のファッションは一貫してキレイめだ。


90 名前:78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 00:17:39.07 ID:vNhl7XZT0
そんなこと、いままですっかり忘れていた。
こんなことを思い出させるなんて、学校とは恐ろしい場所だ。


あのころに戻りたい。
あのころに戻って、やり直したい。


しかし、いくらそう考えたところで、過ぎ去った時は戻らない。
過去に向かって歩き出そうとしても、時間という川の流れが、俺達をただ前へと押し進めていく。
時間は、俺達を乗せて前へ流れていくだけ。

それなら、俺達は前に向かって進んでいくしかない。


91 名前:78 ◆pP.8LqKfPo :2006/09/01(金) 00:19:30.86 ID:vNhl7XZT0
部室棟を後にした頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。
校門まで戻った俺は、校舎の方へもう一度振り返った。

そこには、もう母校と呼ぶしかなくなった、
かつての俺達の居場所が、闇の中に存在していた。


('A`)「・・・・・・ブーン。
  俺達も、いつまでも立ち止まってはいられないぞ。」


そう呟くと、俺は麻子にまたがり、母校を後にした。



 戻る

inserted by FC2 system