( ^ω^) はあそびにんのようです
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/30(水) 01:36:25.34 ID:E3HIbidn0

 その日 ―― 酒場は、大盛況だった。
 かち合った杯が、勢い余って割れる音。
 酔漢の、叫びとも嗚咽ともつかない笑い声。
 どこぞより潜りこんだか、誰かが連れこんだか、はしゃぎたった女の嬌声。

 そうなってしまえば、冒険者達の辿る道は少ない。
 潰れる者。厠まで、吐瀉を我慢できぬ者。給仕の娘の尻を撫で、盆で頬を張られる者。

 ―― 酒精に、疼きを揺さぶられるもの。
 
 早速、二人の男が立ち上がった。
 諍いに理由などない。
 グラスが触れた。肩が触れた。お前の顔が、気に食わない。

 始めに手を出したのがどちらかも、問題になどなりはしない。

 小競り合いは乱闘となり、果てはテーブルをなぎ倒す惨事と化し ――


74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/30(水) 01:37:07.76 ID:E3HIbidn0

 「オラァッ! てめえら ―― こんなめでたい日に、無粋なんぞしてんじゃねえぞ!」


 震えるような恫喝が、喧嘩に被さった。
 びくりと震える者、思わず振り向く者。目を丸くするもの。
 それに気を良くしたか、声の主が鼻をむふんと鳴らす。

 それから、たっぷり十秒の間があった。


 喧嘩は続いていた。

 無視である。
 鮮やかなほどの、素通りである。

 ぼきりと音がした。
 節くれだった太い指が、不気味に蠢いた。
 生傷から滲み出す、体液の滴りを引き連れて、男が吼える――

 ( ゚∀゚) 「このジョルジュ様を無視するたァ、ふてえ野郎どもだぜ!!」


 ―― 火花散る乱戦が、地を揺らがす激戦へと化した瞬間であった。


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/30(水) 01:50:20.71 ID:E3HIbidn0

 ◇

 ( ゚∀゚) 「……痛ッ!」
 川゚−゚) 「当然だ。全く ――」 

 聊か乱暴にジョルジュの頬を拭い、クーは溜息を吐いた。
 怒気よりも、呆れの立った声だ。

 ( ゚∀゚) 「だってよう…… あいつら、」
 川゚−゚) 「……”このめでたい日に、喧嘩なんぞしやがって”……か?」
 ( ゚∀゚) 「そ、そう! その通り! それだよ!!判ってんじゃねえ……」

 わは、と笑おうとしたジョルジュ。

 (;゚∀゚) 「……あ、」
 川゚−゚) 「……この、」

 表情筋が作ったのは、笑みではなく、引き攣りだった。

 川#゚−゚) 「阿呆が!!」


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/30(水) 01:50:56.10 ID:E3HIbidn0

 ばちいん。
 余韻を残して、薬布がジョルジュの頬を勢い良く張った。

 ( ゚∀゚) 「イッ―――……!!」
 川゚−゚) 「その喧嘩に乗り込んだ挙句、さんざんに引っ掻き回したのは誰だ?」
 (;゚∀゚) 「うう、」
 川゚−゚) 「投げ飛ばした一人が女に当たって、連れの男に剣を抜かせたのは誰だ?」
 (;゚∀゚) 「ううう……」
 川゚−゚) 「その男を捻ったはいいものの、鬼気迫る女店主に……」

 ぐりぐりと押し付けられる薬布に、ジョルジュは情けなくも悲鳴を上げた。

 川゚−゚) 「箒ではたかれ、逃げ回ったのは誰かと聞いている!」
 (;゚∀゚) 「お、俺です俺です!!俺ことジョルジュです!!」


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/30(水) 02:04:58.81 ID:E3HIbidn0

 ジョルジュの後頭部で、白旗が上がった。
 土下座した事で、結われた髪がひょこりと上を向いたのだ。

 川゚−゚) 「……、」

 罵声を乗せようとしたクーの唇が、きゅっと結ばれる。

 (;゚∀゚) 「いや、あれだよ、喧嘩と酒は冒険者の花で……」
 川゚−゚) 「……」

 大地に額を擦り付けるジョルジュ。
 その動きで、”白旗”が小刻みに振られる。


81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/30(水) 02:05:44.61 ID:E3HIbidn0

 (;゚∀゚) 「……あ、あんたまで酒場に居られなくして、悪かった!この通り!」

 がばりと身を起こす。
 クーは、腕を組み、仁王立ちでそこに居た。

 ( ゚∀゚) 「お……」

 思わず、ジョルジュは息を漏らした。
 クーは笑っていた。
 ―― 最も、優しげな笑顔ではない。
 片眉と口角を僅かに上げた、どこかシニカルな笑いである。

 だが、もう彼女が怒ってはいない事を、なんとなくジョルジュは察していた。
 

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/30(水) 02:12:12.70 ID:E3HIbidn0

 川゚−゚) 「――…そら」

 呆けたジョルジュに向かい、クーが何かを投げた。

 ( ゚∀゚) 「う、おッと! ……、危ねぇじゃねえか!落としたらどうすんだよ」
 川゚−゚) 「武道家ともあろうものが、反射神経で戦士に負けるのか?」
 ( ゚∀゚) 「んな事ァねえ! 俺の言ってるのは、万が一の……」

 川゚−゚) 「御託はいい。聊か、飲み足りん」

 ( ゚∀゚) 「……はぁ?」

 言葉を遮ったクーに、ぽかんと口を開ける。
 視線を腕の中に落とし、”それ”を見た瞬間。ジョルジュは、歓声を上げた。

 川゚−゚) 「付き合え、と言っている」

 火酒である。ドワーフの愛する、強い酒だ。よくぞあの喧騒から、盗み出してきたものだ。


83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/30(水) 02:24:34.36 ID:E3HIbidn0

 ( ゚∀゚) 「やるねえ!いや、参った!この通り!」
 川゚ー゚) 「……調子のよい男だな。手も早いが、舌も回る、か?」
 ( ゚∀゚) 「言うなって。あんたの言う通りだ。めでたい日に、争いなんざばかばかしい」

 言って、上を指し示す。

 ( ゚∀゚) 「神様ってやつの……お膝元だしな」

 逃れ逃れて、教会の裏手まで来ていたのだ。王城を挟んで、酒場とは反対側である。
 焼けた下草に夜露が降り、独特な匂いを醸している。
 躊躇わず、クーは腰を下ろした。

 川゚−゚) 「……そうだな。それに……」

 酒瓶に括り付けられた小さな猪口へ、ジョルジュが酒を注ぐ。
 礼を言って受け取ったそれを、クーは暫く弄んだ。


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/30(水) 02:26:13.89 ID:E3HIbidn0

 川゚−゚) 「お前には、礼を言おうと思っていた」
 ( ゚∀゚) 「……あ?」

 瞬く間に一杯目を干した男が、訝しげにクーを見やる。


 ―― 向けられたのは、真摯な視線。


 川゚−゚) 「…… あいつらを助けてくれて、ありがとう。感謝している」
 ( ゚∀゚) 「…………、」

 火酒が珠になって舌先を転がっている。
 吟味し終わる前に、ジョルジュの喉が、ごくりと鳴った。
 嚥下した液体は、酒と言うより、炎に似ている。
 燃える臓腑から、焼けた息を吐いて、ジョルジュは耳穴をほじくった。


88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/30(水) 02:38:56.69 ID:E3HIbidn0

 ( ゚∀゚) 「……別に、あんたに礼を言われるような事じゃねえ。
       義務やらなんやらで、あいつらを助けた訳じゃあねえし……」

 それに、と笑う。

 ( ゚∀゚) 「あいつらには、逆に、感謝してるんだぜ。
       面白い―― 戦いをさせて貰ったからよ」

 僅かな呻吟。
 武道家の目に走った色を、クーは見逃さなかった。

 川゚−゚) 「カンダタ、か」
 ( ゚∀゚) 「へッ。聞いてたのか。まあ ―― なんだ。良いんだよ、負けたってよ…」

 拳を握りこむ。
 目を瞑ると、脳裏に斧の一閃が疾る。
 まざまざと植えつけられた記憶を、ジョルジュはゆっくりと転がした。
 酒を味わうようでもあった。

 ( ゚∀゚) 「なんたって、俺は生きてる。このままじゃあ終わらせねえさ」

 くしゃりとジョルジュは笑った。
 鼻を横断する傷に皺が寄る。
 口惜しさと言う苦虫を、無理やり噛み潰した笑顔である。
 だが、暗さは、なかった。


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/30(水) 02:44:13.27 ID:E3HIbidn0

 川゚−゚) 「……ふ……」

 クーの唇に笑いが昇る。

 川゚−゚) 「そうだな。お前なら、出来るかもしれない」
 ( ゚∀゚) 「仮定かよ?そう言う時は、貴方なら絶対出来るわ!って言って……」
 川゚−゚) 「抱きついて、接吻でもするのか?」
 ( ゚∀゚) 「……はっきり言うなよなあ」

 調子狂うぜ、とジョルジュが唇を曲げる。
 ふん、と鼻を鳴らすクー。

 川゚−゚) 「三十路を目前に、そんな真似が出来るか」
 ( ゚∀゚) 「……うるせえな。どうせ俺は、三十路の橋を踏み越えましたよ」
 川゚−゚) 「…………」
 ( ゚∀゚) 「笑った! 笑いましたこの人! 完全に笑いましたよ!!」
 川゚−゚) 「煩い。神父殿に見つかるだろうが」


92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/30(水) 02:56:20.94 ID:E3HIbidn0

 立てた膝に顔をうずめるジョルジュの肩を叩き、クーは立ち上がった。

 川゚−゚) 「……そろそろ、ゆく」
 ( ゚∀゚) 「おお…… あ、これ」

 揺らされた火酒に、首を振るクー。

 川゚−゚) 「飲んでくれ。何、気持ちだ。 ……救国の英雄どの」
 ( ゚∀゚) 「笑いながら言ったって、説得力なんざねえぜ。
       ま―― ありがたく、貰っとくよ。おやすみ」
 川゚−゚) 「ああ。良い夜を」

 上げられた手に、礼を返す。
 顔を上げた時には、クーの姿は、無かった。

 変わった女だと思う。
 少なくとも、彼の辞書には見当たらぬ。
 やはり女はアッサラームかイシスがいい。そうジョルジュは思う。
 だが、花の代わりに剣を選んだ、変わり者がいてもいい ――
 そう言う風にも、思うのである。

 ( ゚∀゚) 「ま、なんにせよ――」

 ( ゚∀゚) 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 武道家の目が、見開かれた。


93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/30(水) 02:57:04.76 ID:E3HIbidn0











 (;゚∀゚) 「おっぱい見るの忘れたァーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


 ―― アリアハンの夜に、絶叫が響く。
 犬に追い立てられる男の悲鳴と、偲び起こった笑いが、黎明に向かう空に兆して行く ――

(了)


 戻る | 次へ

inserted by FC2 system