( ^ω^) はあそびにんのようです
5 名前:巻頭言 :2006/09/17(日) 22:20:19.81 ID:cJvOIGj+0


     傷つき乾いた黄の罅に 緑の優しき癒しもて
     省みられぬ黄の哀に  黒き鋼の剄きもて
     交わり繋ぎしその色は 過乾の砂に眠り呼び
     はぐれわかれし迷い星 王の膝にて出会いたり

                                  ―― 古き詩歌



6 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:24:08.60 ID:cJvOIGj+0

 ( ^ω^) 「僕は……アリアハン大陸の、レーベと言う漁村に産まれましたお……
        いえ、産まれたんだと思っていたんですお」
 | "゚'` {"゚`l 「……ほう」
 ( ^ω^) 「だけど……」

 立てた膝に顔をうずめ、ブーンは甦ったものに呻く。
 そうして彼は語り始めた。砂海へと赴いた理由 ―― この旅の、由を。


 ◇



8 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:24:40.12 ID:cJvOIGj+0


 砂浜を巡る潮騒が、早秋の気配を孕む日だった。
 はしゃぐ子供達の声が波間に吸い込まれ、距離をたがえて迫るようである。

 ( ^ω^) 「その時僕の鎖鎌が、盗賊の一人をドドインドイーンwwwwww」
 子供 「わー、すっげー!」
 子供 「それで、冠はどうなったの?」
 ( ^ω^) 「聞いて驚くなかれだお。並居る悪党どもを切り伏せて、この僕が……」

 浜の中ほどに形成された、円座の中心にブーンはいた。
 身を乗り出して、彼の話に聞き入るのは村の子供達だ。
 一様に目を輝かせ、固唾を呑んで話の続きを待っている。

 ( ^ω^) 「とったどーーーーーーーーー!!」
 子供 「すっげーーーーーーーー!!」
 ( ^ω^) 「その後僕は、筋肉だるまのジョルジュと目つき悪男のギコを従えて、
        ロマリア王を助け出したんだお。残るは美しき虜囚……」

 ( ^ω^) 「ああ何と言う事でしょう。クーその人は、魔物達に陵辱されかかっていたのですお!」


10 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:25:30.18 ID:cJvOIGj+0

 子供 「       ヽ|/
     / ̄ ̄ ̄`ヽ、
    /         ヽ
   /  \,, ,,/    |
   | (●) (●)|||  |
   |  / ̄⌒ ̄ヽ U.|   ・・・・・・・・ゴクリ。
   |  | .l~ ̄~ヽ |   |
   |U ヽ  ̄~ ̄ ノ   |
   |    ̄ ̄ ̄    | 」


 ( ^ω^) 「しかしッ!そこでッ!唸りを上げる僕の拳ッ!吹っ飛ぶ魔物ッ!
        咽び泣くクーが、僕の姿を見止めて歓喜の声を上げるッ!」

 川゚−゚) 『ブーンッ!』
 ( ^ω^) 『クー。もう平気だお。君を傷つけた者はこの僕が許さないお!』
 川*゚−゚) 『ああ、ブーン……来てくれると信じていた……』
 ( ^ω^) 『……クー』
 川*゚−゚) 『ブーン……』


11 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:26:23.56 ID:cJvOIGj+0




           アッ――……!






12 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:26:55.09 ID:cJvOIGj+0

 ξ゚听)ξ 「ちょっとまったあああああああああああああ」

 クライマックスは絶叫に遮られた。
 沈黙がはじけ、てんでに子供達が喚き始める。緊張は解け切ってだらりと弛緩した。
 これでは話の再開など出来そうにない。
 がっくりと肩を落とし、ブーンは声の主を見上げた。

 ξ゚听)ξ 「ブーン!あんたこの子達に、またよからぬ事を吹き込んで!」
 (;^ω^) 「あうあう、ツン、ひどいお!」
 ξ゚听)ξ 「ひどいもんですか。皆も駄目でしょ、こんな無職童貞の言う事なんて信じちゃあ!」

 仁王立ちで腕を組み、丘の上から砂浜を睥睨しているのは一人の娘だった。
 ふくよかに波打つ栗色の髪は二つに分けて結ばれ、潮風にわらうように遊ばれている。
 海辺の村民らしく、小麦色に焼けた肌。そばかすの浮かぶ鼻が、小造りながらもつんと上向いている。
 大きくまどかな瞳は波を写して青い。
 美しい娘だ。
 ただその美しさは、目鼻立ちの良し悪しで図れるものではない。
 身の内からあふれ出す瑞々しさや、生き生きとした表情こそが、彼女を美女たらしめているのだ。


13 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:29:22.73 ID:cJvOIGj+0

 ξ゚听)ξ 「全くあんたは、折角船を譲ってもらったのに……!」

 むんずとスカートの裾をひきつかみ、娘は砂丘を駆け下りる。
 素晴らしいスピードだった。
 すんなりとした足が砂浜を掻き、瞬く間にブーンへと接近し ――

 ξ゚听)ξ 「どうしてそう …… 自堕落なのよッ!! しなさいよ! 仕事ッ!」
 (;^ω^) 「あああおッ!!ぐ、ぐるじいお……!」

 急所を穿つ狼の勢いで、娘の手がブーンの胸倉を掴んで揺さぶった。

 子供 「わあッ!ツンの暴力女ー!」
 ξ゚听)ξ 「まッ!あんたたち、そんな事言ってると、グーでパンチするんだからね!」
 子供 「そんな事言って、ブーンの事が心配だった癖に!」
 ξ#゚听)ξ 「ちょっと……!幾らなんでも怒るわよ!」

 きゃあとはしゃぐ子供達が、二人を取り囲んで囃し立てる。
 表情は明るい。この二人の喧嘩が挨拶と同義である事を、彼らは良く知っていた。


14 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:30:15.87 ID:cJvOIGj+0

 子供 「良く言うぜ!ブーンを探しに行こうって、洞窟で最後までごねてたのは誰だよ!」
 ξ#゚听)ξ 「あッ… あんた達ッ!!」

 怒り心頭に達した娘が、射殺さんばかりの勢いで振り返る。
 子供達の策は為った。
 彼女はブーンに食って掛かるのを忘れ、子らを追い始めたのだから。

 子供 「アハハ……!ブーン、またお話してね!」
 ξ゚听)ξ 「ちょ……! ―― もう!」

 蜘蛛の子を散らすように逃げ去る子らに、口惜しがる娘 ―― ツン。
 
 ( ^ω^) 「ツン……そこまで僕の事……」
 ξ゚听)ξ 「あんたねえ……」

 気分を出したブーンの顔を、ツンはじろりと睨めつける。


15 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:30:50.60 ID:cJvOIGj+0

 ξ゚听)ξ 「まあ良くぞそこまで、態度を変えられたもんね!クーさんとやらはどうしたのよッ」 
 (;^ω^) 「あうあう……あれはストーリー上の起伏が欲しかったと言うか、何と言うか」
 ξ゚听)ξ 「……どうせ魔物を倒したのも、ギコさんの癖に」
 (;^ω^) 「何を言うお!」 
 ξ゚听)ξ 「あんたのお話なんて、当てにならないって事でございますわよ」

 頭を掻くブーンの前で、ツンはやれやれと両手を腰に当てた。
 笑う口元から零れる白い歯が眩しい。
 防衛成功の後、ブーンを村まで送り来たのはギコである。
 最も彼の人となりを知るのは、ツンを含めた僅かな人間だけだった。
 ブーンのほらが受け入れられるのも、故にこそ。

 然し、それを判っていて、ツンは追撃の手を打たない。

 ξ゚听)ξ 「……だけど、あんたといると、あの子達楽しそうだわ」
 ( ^ω^) 「おっおっおっ……」
 ξ゚听)ξ 「あんたでも役立つ事があるなんて、以外よね」
 (;^ω^) 「流石ツンさん、褒め言葉にも棘があるやら痛いやらwwww」


16 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:32:31.25 ID:cJvOIGj+0

 先の戦いが子供達に与えた傷は深い。夜眠れぬ者、言葉を失う者も少なからずいた。
 そんな子らにとって、憎い魔物を打ち倒す英雄譚は、一つの救いとなっているのだ。
 だからこそツンも咎め立てをしない。
 だが ――

 ξ゚听)ξ 「いーい!だけど、その事と働かない事とは別なの!漁の才能がないなら、
        畑を耕しなさい!まさか勇士様に、そんな腕力がないなんて…… 言わないわよね?」

 復興に男手が足りないのも、また事実。
 帰還時の英雄扱いはそろそろ鳴りを潜め、細かな雑用を言いつけられる事も多いブーンである。

 (;^ω^) 「あうあう……今度は何だお?全く、村の救世主様に向かって」
 ξ゚听)ξ 「バカッ!」

 ぱしん、と軽い音。ツンの平手がブーンの肩を叩いた。

 ξ#゚听)ξ 「まったく、始末に追えないわ!物見櫓もまだ復旧できてないのよ!」
 (;^ω^) 「冗談だお、冗談!」
 ξ゚听)ξ 「あんまり悪戯けた事言ってると、ギコさんを呼んで全部喋って貰うんだから」
 ( ^ω^) 「ふっふっふ …… それなら大丈夫だお!」
 ξ;゚听)ξ 「な、何よ …… 気持ち悪いわね」

 にやつくブーンに後退るツン。ブーンは意に介さず、胸を張る。


17 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:33:52.83 ID:cJvOIGj+0

 ( ^ω^) 「ギコは僕の友達だお!確かにあいつは目つき悪男だけど、僕を売るような真似はしないお」
 ξ゚听)ξ 「…………」

 ツンはぽかんと口を開け ―― 滲むように、笑った。
 快活な彼女にしては珍しい柔らかな笑みだった。

 ξ゚ー゚)ξ 「あっそ。 ……じゃ、私は行くわ。詳しい事は長に聞いて」

 言って、くるりと身を翻す。

 ( ^ω^) 「一緒に行かないのかお?」
 ξ゚听)ξ 「いやあよ。西の園で、薬草積んでこなきゃ」

 ツンは薬師の娘である。村の西に広がる草園は、幸いにも被害を免れていた。
 そこで薬草の世話をするのが彼女の日課なのである。
 砂を踏み分け、走り出したツン。その背を名残惜しげに見送るブーンへ、不意にツンが振り返った。


18 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:34:27.24 ID:cJvOIGj+0

 ξ゚听)ξ 「ブーン!」
 ( ^ω^) 「お……?」
 ξ゚ー゚)ξ 「良かったわね。いい友達が出来て」
 ( ^ω^) 「…………ツン」
 ξ゚听)ξ 「勘違いしないでよね。負担が半分になって、せいせいするって意味なんだから」
 
 片手を腰に当て、ちちちと指を振る。彼女の幼い頃からの癖だ。

 ( ^ω^) 「うんだお!」
 ξ゚听)ξ 「じゃあね! ちゃんと長のとこに行くのよ!」

 同年の幼馴染は、今度こそ振り返らなかった。
 ブーンも鼻の下を擦り、重い腰を上げる。

 ―― これが、彼らが生まれ育った村で交わす、最後の言葉になるとも知らずに。


 ◇


19 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:38:25.90 ID:cJvOIGj+0


 (´Э`) 「……おい、ブーン」
 (;^ω^) 「おっ……」

 村への道をほたほたと歩いていたブーンは、木立の影から現れた青年達を見て足を止めた。
 ―― 村の若衆達だ。ブーンの口元が引き攣る。

 (;^ω^) 「ど …… どうかしましたかお」

 答えは無い。だが、無言で近寄る彼らの表情を見れば判る。
 まただ。
 ブーンは泣き笑う面を俯かせ、ゆっくりと息を吐いた。

 もう随分と前の事になる。ある時を境、彼らは事あるごとにブーンをつるし上げ始めたのだ。
 原因はツンとの関係にあるのだろう。
 美しく聡明な彼女と、隣家と言う理由だけで親しくしている自分。

 どう考えても釣り合う訳はない。
 勿論彼らは恋人同士ではなかったし、日がな共にいる親友でもない。
 だがそれを彼らに言ったところで、益々激昂するばかりである。
 ブーンはいつしか抵抗を諦め、諾して罵声を受け入れるようになっていた。


20 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:39:15.62 ID:cJvOIGj+0

 (´Э`) 「お前……」

 悪意を滲ませた低い声。

 (´Э`) 「―― 調子に乗るんじゃねえぞ!」
 
 言葉と同時。ブーンの頬目掛けて、拳が振るわれる。
 悲鳴を想像し、嘲弄を浮かべた青年達は、だが ――

 (;^ω^) 「あ、あぶないお!何するんですかお!」
 (;´Э`) 「!?」

 空を切った拳に息を呑んだ。
 互いの目配せに不信が写る。

 ( ,_`ゝ′) 「お、おい……」
 (・○・) 「―― まぐれに決まってんだろ! 野郎ッ!」

 青年達は、半円を描いてブーンを取り囲んでいた。
 掴みかかる一人は、ブーンの左後方。
 避けようのない一撃の筈である。
 ―― しかし。


21 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:39:50.78 ID:cJvOIGj+0
            
     _( ・○・)    ( ^ω^)
  三(⌒),    ノ⊃    (     )     「こんな奴……!」
     ̄/ /)  )      |  | |
    . 〈_)\_)      (_____)__)

         
         (  ・○) ( ^ω^)
       ≡≡三 三ニ⌒)     .)    「いつも見たいに、すぐ泣く……」
        /  /)  )  ̄ |  | |
        〈__)__)  (_____)__)

                     
                ( ^ω^)
                (、っiョc) 
                 ゙'ー'゙ー'゙   
                   .|‖
          (    ・)ノ )‖| 
          /    ̄,ノ  ‖
         C   /~   ドカーン 
         /   / 〉
         \__)\)
 

 (;・○・);´Э`); ,_`ゝ′) 「えーーーーーーーー!!」


22 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:40:26.44 ID:cJvOIGj+0

 (;^ω^) 「セフセフ!! ……って、やめてくださいお!」
 (;・○・) 「いや、その避け方はどう考えてもおかしいだろ!!」

 二発目の拳が空振りに終わった時、はっきりと青年達に焦りの表情が浮かんだ。
 一方ブーンも、自分の身体に違和感を感じ、困惑する。

 (;^ω^) (…… どうしてだお? 今までは、殴られっぱなしだったのに……)
 
 ―― 見えるのだ。彼らの拳が、である。
 先の遠征で自分の身体に起こった変化を、ブーンは今はっきりと体感した。

 ( ^ω^) (これなら、やれるお……!)

 口端を撓ませたのは、恐れではなく希望。
 何事かを喚きながら襲いかかってくる暴漢達へ、ブーンは単身立ち向かい ――


 ◇


23 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:42:28.48 ID:cJvOIGj+0


 草原に落ちる影が、長く寛ぎ始めた。
 ずんぐりと蹲る影達の中、一際その背を伸ばしているのは、

 ( ^ω^) 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 …… やはり、ブーンの物。
 激しく息をつく青年達へ、いたわるような声が落ちる。

 ( ^ω^) 「もうwwwwやめましょうおwwwうはwwwwサーセンwwwww
        僕が何かしたなら、謝りますからwwwwwww」
 (;´Э`) 「……、 こ、いつ……、、」
 (;・○・) 「満面の笑みで……、 言われても、 ……説得力ねえんだよ…、」
 (; ,_`ゝ′) 「ちょこまか、動きやがって…… てめえで攻撃しねえで、卑怯だぞ……!」

 ブーンは有頂天になっていた。
 今までは一人にだって適わなかった彼らに、今自分は辛酸を舐めさせている。
 それがたまらなく心地よい。
 ギコも魔物を斬る時、こんな喜びを味わっていたのかと思うほどだ。


24 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:43:14.76 ID:cJvOIGj+0

 最も、厳密に言えば、ブーンは闘ってなどいない。
 ひたすらに彼らの攻撃を躱し続けただけだ。青年達の体力が付き、戦闘不能に陥るまで。
 喜びに浸るブーンは気づかなかった。一人の目に浮かんだ、暗い情感に。

 (;´Э`) 「――…てめえなんざ…」

 ―― ほどばしったのは、悪意の塊。


25 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:44:43.89 ID:cJvOIGj+0




 (;´Э`) 「海から来た、災い子の癖によ!!」





26 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:45:15.16 ID:cJvOIGj+0

 その瞬間、叫喚する一人を除き、青年達の顔から血の気が引いた。
 下草を揺らしていた喘ぎが止まり、凍て付く静寂が降り注ぐ。

 (;´Э`) 「何が勇士だ、馬鹿にしやがって……!」

 青年の声は罅割れていた。口角には血泡が溜まっている。
 尋常ではない惑乱だった。発狂したのではないかと疑うほどに。

 (; ,_`ゝ′) 「おいッ!」
 (;´Э`) 「お前らだって判ってるんだろ!――先の襲撃だって、きっとこいつの所為だ!
        こいつの所為で、うちの村は……」
 (;・○・) 「―― やめろ!それ以上、言うんじゃねえ!」

 ブーンは唖然としてその光景を見ていた。
 言われた事が理解できない。災い子 ―― 海から来た……?
 為す術もなく立ち尽くすブーンに、青年は殆ど眼窩から飛び出した眼球を向け ――


27 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:46:23.91 ID:cJvOIGj+0

 (;´Э`) 「お前はなあ、昔 ―― 小船でうちの村に流れ着いた、親無し子なんだよ!」

 そう、絶叫した。

 (;゚ω゚) 「………… お ……?」
 (;・○・) 「おい、黙らせろッ!―― 村長に知れたら、どうなるか……!」
 
 既に、その場の誰もが、ブーンを見てなどいなかった。
 彼らの輪郭を、恐れがくっきりと縁取っている。
 その由も判らぬ侭、ブーンは投げつけられた言葉の棘に胸中をずたずたにされていた。

 ―― まさか。
 ―― 嘘だ。こいつは、僕に負けたから、そんな事を言っているだけで……


28 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:47:00.28 ID:cJvOIGj+0

 (; ,_`ゝ′) 「ブーンッ!!」

 然し。

 (; ,_`ゝ′) 「いいか!こいつの言った事は出鱈目だ!信じるなよ……誰にも言うんじゃねえぞ!」

 その声音と、矛盾した言質が、決定的な何かを齎した。
 仲間に引き摺られて行く青年を眺めるブーンの目に、拭い切れない不安の膜が張る。

 (;゚ω゚) 「……親無し子……?」

 ―― 俄かに兆し始めた黒雲が、一滴、雫を零した。
 

 ◇


29 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:48:57.89 ID:cJvOIGj+0


 ( ^ω^) 「……ごちそうさまだお」
 J( 'ー`)し 「あら、もういいの?珍しいわねえ。風邪でも引いた?」
 
 目の前に並べられた惣菜に、殆ど手を付けずにブーンはスプーンを置く。
 強さを増し始めた雨滴が屋根を激しく叩いている。
 食欲などあろう筈も無かった。
 結局あれから村長の家に赴く事も無く、ブーンは一人、ベッドに包まり考え続けていた。

 ―― 本当に、自分は、親無し子なのか。それならカーチャンは、僕の本当の母親では……無い?

 思い当たる節はいくつかあった。
 ブーンは幼い頃の記憶が全くと言っていいほど無い。
 物心ついてから、ツンと遊んだ記憶がおぼろげにあるだけだ。
 記憶力に個人差はあると言う。だが、一切を覚えていないのは、幾ら何でもおかしいのではないか。

 そして――自分と、両親の顔。
 似ていないのだ。全く。
 ブーンの父親は漁中の事故で、既に鬼籍に入っている。記憶の中の父は、逞しく、頑健な男だった。
 母も海辺の民の気質を受け継ぎ、線の細そうな外見とは裏腹、芯の強い女性である。
 そのどちらの特徴もブーンは受け継いでいなかった。


30 名前:第三章 それぞれの理由 :2006/09/17(日) 22:49:47.61 ID:cJvOIGj+0

 ( ^ω^) 「…………」
 J( 'ー`)し 「どうしたの、人の顔をじろじろ見て。 ―― もしかして、いい人でも出来た?」
 ( ^ω^) 「カーチャン……」

 朗らかに笑う母の顔から目を逸らす。
 自分は、何を言おうとしているのか。
 今ならまだ間に合う。彼らの事など忘れて、今までどおり暮らせば良い。

 ( ^ω^) 「聞きたい事が、あるお……」

 駄目だ。聞いてしまえば、引き返せなくなる。
 判っている。判っているのに、口を噤む事が出来ない。
 もつれる舌先が、乾いた口腔に震え ――

 ( ^ω^) 「…… 僕は、カーチャンの子供じゃ、ないのかお……?」

 ―― 抑え切れぬ疑問が、重く吐露された。


 ◇



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