( ^ω^) はあそびにんのようです
3 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:21:53.46 ID:0JyM8TRs0
 ◇


 ( ;ω;) 「うっ、、げほッ……」

 ブーンの胃液が乾いた大地を汚した。

 (;゚Д゚) 「――…、 ……… どうして……」
 
 少年の沈黙を破るよう、鶏鳴が暁を告げる。

 "彼女"は緩慢に瞬く。その些細な動作すらが苦痛だった。
 既に視力は失われている為、彼女が世界を捉える方法は、常人とは異なっていた。
 眉間が、疼く ――


4 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:22:25.43 ID:0JyM8TRs0

 光が二つ兆している。

 一つは、青みを帯びた黒い光。銀と黒の間で揺らぐ鋼の色だ。
 強い。不羈の光である。溢れ出して止まらない力が、四方に己を照射させしめている。
 だが ―― 硬い。それは強張りとも言えるもの。
 鋼の手触りの中に、棘持ついらえがある。牙を向かずにはいられない、獣の頑迷だった。
 
 一つは、ふくよかな光。さだまった色は、ない。瞬き毎に色をたがえるのだ。
 柔い。脆弱で、捉える事が難しい。
 だが ―― おもしろい。およそさだめを感じさせぬ、形容しがたい魂の形。
 変遷の途中ではない。未だ始まってすらもいない ――

 ? 「預言は齎された。兆しを変える事、これあたわず……」



5 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:22:56.53 ID:0JyM8TRs0

 堪えきれない呻きが女の口から漏れる。
 とうの昔に枯れた筈の、涙が溢れてとまらなかった。
 雫はささくれ立つ頬を伝い、枝の如く細った肢に落ちる。

 ――  東からの風吹きし時、異形を払う笛が鳴る。

 東から来た二人の少年に、笛 …… 魔を払う、よるあけ鶏の鳴き声が兆した。
 最古の預言が蘇ったのだ。
 この者達ならばきっと、私の願いを叶えてくれる。
 死に蝕まれた砂の中に、新たな命を芽吹かせる ――

 从;;-゚从 「……わたくしは、ディ」

 その名を、希望と言う。

 从;;-゚从 「腕輪に呪われし ―― 女王です」


 ◇


6 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:24:07.03 ID:0JyM8TRs0


 (;゚Д゚) 「呪われ……し……?」

 ギコは、逸らしていた視線を上げた。
 嘘だと言いかけ、まさかと零し、だが全ての言葉を失って自失する。

 これが、己の求め来た女王なのか。

 糜爛の臭気が鼻を突く。薄暗い祠の中に、彼女はいた。
 最も、それを、人と呼ぶ事が出来るならば ―― だが。

 ( ;ω;) 「おっおっ、、 う、、嘘だお……」

 しゃくりあげ、蹲るブーンの背を、アベが摩ってやっていた。
 無理もない。自分とて、喉を突き上げる叫びを必死で堪えているのだ。
 
 黒死病 ――
 その言葉がギコの脳裏を過ぎる。
 肉が膿み爛れ、黒い瘡蓋に全身を覆われ、苦しみ抜く奇病である。
 女はまさに、その黒い死に冒されているように見えた。
 後退るギコ。女のうつろな眼窩が、ゆるりと巡る。


7 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:25:23.79 ID:0JyM8TRs0

 (;゚Д゚) 「あッ、、う…………」
 从;;-゚从 「―― 安心なさい。これは病ではありません。貴方に伝染る事など、ないのですよ……」
 (;゚Д゚) 「ッ……!」

 ギコの頬が火照った。自らの怯臆を恥じたのだ。

 ( ゚Д゚) (……、俺は馬鹿かよ。こんな事で怖がって、この先どうするってんだゴルァ……)
 ( ゚Д゚) (俺は ―― 俺は、バラモスを)

 幾度か息を吐き、気を落ち着ける。
 案じられるのはブーンの身だった。無言で蹲り、先ほどから呻きすら上げていない。
 ちらりと女王を窺う。彼女が喋ろうとせぬ事を確認し、ギコはブーンの傍らに膝を付いた。

 ( ゚Д゚) 「よう、ブーン …… 大丈夫かよ」
 ( ω) 「…………」
 ( ゚Д゚) 「何とか言えって!男ならよ、これ位で泣いてんじゃねえぞゴルァ」

 ブーンの恐れを払拭せんと、その口調は軽い。
 励ますように肩を叩くギコ。


8 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:26:14.18 ID:0JyM8TRs0

 ( ゚Д゚) 「―― ッたくよォ、俺に協力してくれんだろ?それなら……」
 ( ω) 「…………お」
 ( ゚Д゚) 「あ?」
 ( ω) 「しないお……」

 途端、勢い良くギコの手が払われた。

 ( ;ω;) 「協力なんてしないお!!」
 ( ゚Д゚) 「…………!」

 ブーンは泣いていた。顔面は血の気を失って青く、噛みあわぬ歯の根が恐怖を訴える。
 後退る彼に、ギコは気づいてしまった。
 恐怖の対象は女ではない。
 ―― ギコだ。

 ( ;ω;) 「どうしてギコは平気なんだお……!」
 ( ゚Д゚) 「それは、、」
 ( ;ω;) 「普通じゃないお! おかしいお……! 訳わかんないお!!」

 取り乱すブーンに、ギコは言葉を失い、竦んだ。
 言ってしまおうかと思う。自分に課した使命。そう望むようになった経緯を。

 ( ゚Д゚) 「―― ブーン、聞いてくれゴルァ。俺は……」


9 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:27:29.37 ID:0JyM8TRs0



 ( ;ω;) 「触るなおッ!!」





10 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:28:06.28 ID:0JyM8TRs0

 …… その言葉の威烈。
 その年にして、不遜なまでの力を備えた少年は、雷に打たれたように動きを止めた。

 ( ;ω;) 「これ以上ギコに関わったら、酷い目にあうんだお……!」
 ( ゚Д゚) 「ッ!!」
 ( ;ω;) 「ギコは僕の事、疫病神だとか言ったけど ――
        本当に疫病神なのはギコの方だお!ギコに会わなきゃ、僕は……僕は!」

 ブーンの言葉が止まる。その表情に混じった後悔に、ギコは気づく事が出来なかった。
 何かを言わなければとギコは思う。
 大した事じゃない。ブーンは錯乱しているだけだ。
 だから、はやく、何かを言わなければ。

 ( ;ω;) 「うっ、、うっ、、  ―― うおおおおおおおおおん!!」
 | "゚'` {"゚`l 「ブーン君!」

 アベの横を擦り抜けて、ブーンは祠の外に飛び出して行った。


11 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:28:42.15 ID:0JyM8TRs0

 ( ゚Д゚) 「…………」

 沈黙するギコを、物言いたげにアベが見る。
 その視線に答える事は、今のギコには出来なかった。
 小さな溜息が耳を打つ。裾さばく音で、アベがブーンを追ったのだと分かった。
 ギコは ―― 振り向けなかった。

 ( ゚Д゚) 「アイツが一緒じゃなきゃ、話を聞けねえのかゴルァ」
 从;;-゚从 「…… いいえ。二人でと言ったのは、預言の徴を知る必要があったからです。
        聞き手は、貴方一人でも問題はないでしょう」
 ( ゚Д゚) 「そうかよ。だけど俺は、あんたを完全に信用した訳じゃねえぜ。
       あんたは、俺の目的を……」

 言葉を捜すような、一瞬の間。

 ( ゚Д゚) 「確かに知ってた。だけどよ ―― それだけで、どう信じろっていうんだゴルァ……!
      女王が、どうして……そんな姿で、こんな場所にいる!」


14 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:30:25.40 ID:0JyM8TRs0

 改めて、ギコは女に視線を合わせた。
 心の底に濾し切れない澱があって、それに目を向けたくない。
 砂を噛むような感覚が背を苛んでいる。
 あるいはそれから目を叛ける為に、女王を見たのかもしれない。そうギコは思った。

 女の口元が僅かに震える。
 長い白髪は腰までの長さ。枯れ木のように痩せ細った身体を、膿に濡れた瘡蓋が一面に覆う。
 元の顔を想像することなど、出来そうになかった。

 そして、その左腕に、奇妙な腕輪が下がっている。
 ―― 壊れているのだ。簡素な銀の環はひしゃげ、嵌っていた筈の玉石の姿はどこにもない。

 从;;-゚从 「判りました。お話しましょう」


 从;;0゚从 「獣心の簒奪者達がいかにして、イシスを踏みにじったかを。
        …… 最古と最後に齎されし、二つの預言の符号を」


 ◇


15 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:32:46.92 ID:0JyM8TRs0


 ギコ達の煩悶と、同時刻 ――
 イシス王宮内に注がれる陽射しが温む。
 伏礼して待つ臣下達は、一分の狂いも無い枡目を思わせた。
 朝議である。
 地方の仕官や使者、警備士達の報告、法の可決や摺り合せなどはこの場で行われるのだ。

 (´・ω・`) 「…………」

 やがて ―― 絹擦れの音が、王の到着を知らせる。
 益々以って、臣下達は床に額をすり付けた。
 彼らの前におわすのは、富めるイシスの全権を掌握する只一人の国王なのだ。
 いかなる詩歌で称えても尚足らぬ、神に等しき御方様。
 天空の星々に選定された預言士 ―― その筈だった。

 だが。
 遠く、末席の方より、くしゃみの音が列柱の間を打つ。
 場は凍りついた。
 あってはならぬ無礼である。
 続く血臭を予測して、臣下達は息を詰め ――


16 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:33:21.95 ID:0JyM8TRs0

 ( `ハ´) 「これより朝議を始める!」

 愕然とした。
 咎めは、無かった。
 伏礼を解く合図に、それでも彼らは面を上げる。
 王の右手が上がる。

 (´-ω-`) 「砂海に巡りし千の神々に、祈りを」

 深い嘆息が、臣下達を蝕んだ。

 ―― やはり、男の王など……傀儡でしかない。
 ―― 先々代の御世がお懐かしい。ああ、オルテガさえ来なんだら……


 ◇


17 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:34:30.69 ID:0JyM8TRs0


 (´-`) 「東方警備隊からの報告でございます」

 献上された書を、青年は眺める。
 書はすぐに己を通り過ぎ、左右に控える「有能な」廷臣達に預けられねばならない。
 目に飛び込んでくる、様々な単語を脳裏に刻み込む。
 一瞬で為さねば気づかれてしまう。

 (´・ω・`) 「――…」

 右に控える細身の男へ、青年は口を寄せた。
 ―― ふり、であった。
 男は一度も青年に視線を合わせない。何事かを耳打ちされた、という事実さえあれば良いのだ。

 ( `ハ´) 「ふむ……」
 ( `ハ´) 「王はこう仰せだ!魔の台頭ではなく、まつろわぬ民の叛旗を疑えと ―― 」
 (´・ω・`) 「ッ――……!!」

 青年の顔から血の気が引いた。
 この五年間、ひたすらに仮面を被り続けて来た。だがこの勅を許す訳にはいかない。
 肘掛にあしらわれた瑪瑙を強く握り締め、青年は、男を凝視する。


18 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:35:02.90 ID:0JyM8TRs0

 (;´・ω・`) 「―― 将軍!」
 ( `ハ´) 「………」
 (;´・ω・`) 「、、 …、 ………」

 ((´;ω;`)) 「ウッ……」

 歯の根が、噛み合わない。声が出ない。
 やめよと叫ばなければならないのに、足が震えて腹に力が入らない。
 たかが、臣下に睨まれただけで。王たるものが。

 それほどまでに、「あれ」が心を縛っているのか ――

 (´;ω;`) (……だけど、駄目だよ。これを許しちゃいけないんだ……!)

 青年は唇を噛み締めた。必死に息を整え、機を窺う。


19 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:35:35.41 ID:0JyM8TRs0

 (´-`) 「……では、我らは如何に」
 ( `ハ´) 「騎兵五百、歩兵二千を遣わす。東の村落を打ち、逆賊タカーカズの首級を上げよ」
 (;´-`) 「ッ……!そんな!」

 使者の顔が、目に見えて強張る。

 (;´-`) 「どうかお慈悲を!タカーカズ将軍は、イシス防衛に尽くされた御方でございます!
       女王崩御の際とて、戦乱の火種になるを恐れてこそ……野に下ったのではありませぬか!」
 ( `ハ´) 「知れたものかよ!あの時討たなんだ慈悲を忘れ、獣のように私兵を肥やしたのだろうさ!
         きゃつの狙いは明らかなり!妖術無き今、己の武功を掲げ……イシス攻略に乗り出すぞ!」 

 高まる舌鋒に室内がざわつく。彼らの声が届く範囲にいる者達は、不安げに視線を交わしあった。
 と ――


20 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:36:25.56 ID:0JyM8TRs0



 (;´0`) 「……獣は、貴様らだ!」




22 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:37:25.92 ID:0JyM8TRs0

 次の瞬間、悲鳴が上がった。
 抜刀しざまに飛び出した使者を、四本の槍が串刺しにしていた。
 血泡にくぐもる呻吟が青年の耳を穿つ。
 思わず立ち上がり、使者に手を伸ばそうとし ――

 (;´0`) 「あ……ぐ…… 神は、お許しにならぬ…… 簒奪者め!星を愚者と侮りし者達よ、呪われよ!」

 それを破ったのは、使者の絶叫。

 (;´・ω・`) 「あ……うう……!」
 (;´0`) 「王よ……お恨み申し上げま…… ぐふッ!」

 鮮血がほどばしった。
 凄まじい量だった。四つの刃が、紙でも千切るように使者の身体を抉り抜いたのだ。
 零れた臓物が石畳を叩く。
 四散した胴部が、審議を待つ使者達へと降り注ぎ、高く叫声が上がった。


23 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:38:58.28 ID:0JyM8TRs0

 ( `ハ´) 「御前で乱心とは! 痴れ者めが!
         この汚らわしき獣を打ち捨てい!砂鼠の餌にでもしてやるがよい」

 青年は固く目を瞑った。頭から血が引き、瞼の裏が闇に舐められる。
 ……機は、失われた。
 ここで立ち上がる訳にはいかない。己は王なのだ。王たる態度を取らなければ、

 ―― 殺されてしまう。母のように。


 ◇


27 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:43:15.21 ID:0JyM8TRs0


 それからの具申を青年は聞いていなかった。
 機械的に頷き、申書に目を走らせ、囁く真似をする。
 どこか高いところから、己を見下ろしている感覚があった。
 
 玉座の傍らで幼子が泣いている。
 泣けない青年の代わりに、柔らかな巻き毛を振り、緑の目を一杯に潤ませ、泣きじゃくっている。

 (´・ω・`) (――……ああ……)

 殺さないで ―― 殺さないでよう。
 お願いだから、殺さないで ――

 (´・ω・`) (前にも、あの子を見た事がある……)

 青年の記憶が過去に遊んだ。
 空を埋め尽くす凄惨。夜毎彼を蝕む、悪夢 ――

 全ては、五年前 ―― あの夜から始まった。


 ◇


29 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:44:01.79 ID:0JyM8TRs0

 (´;ω;`) 「陛下!陛下 ―――ッ!!」
 ? 「来てはなりません、ショボン!」

 時の神を祭る祭殿の端。大河を眼下に侍らす際で、青年は声を限りに叫んだ。
 屈強な男達が、彼を石畳に引き倒している。
 視線の先に人影は三つ。
 剣を構えた男。その切先を添えられた女と、彼女に寄り添う娘。

 ? 「―― シナー!貴方は ―― 己の所業が何を生むか、判らぬのですか」
 ( `ハ´) 「これは異な事を。長きに渡り、怪しげな術で民を誑かした妖婦の血族が」
 (?) 「女王様に対して、何と言う無礼を……!」
 ( `ハ´) 「ハッ …… 女官が生意気な口を聞く」

 嘲弄を口端に載せ、男は唾棄した。

 ( `ハ´) 「これより先……そのような呪術で国を左右させる訳には参らんのですよ。
        オルテガに尾を振った先代の所為で、わが王朝の権威がいかなる道を辿ったか。
        海の民の造反を、止められなかった事でお分かりでしょう」
 (?) 「黙りや、下郎が!」

 切っ先の前に身体を入れた娘の苛烈な声。


30 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:45:09.14 ID:0JyM8TRs0

 (?) 「獣心の者ども!そこな民より、倍以上の税を搾取していたのは誰ぞ!」
 ( `ハ´) 「…………ふふ……」
 (?) 「何ぞ可笑しい事があるかや!」
 ( `ハ´) 「ハッハッハ……!分かっていて手を拱いていたと?
        それこそ、王権に力の無き証ではありませぬか」

 ? 「……なんと、あさましい……」

 細い、横笛の音を思わせる女の声が震えた。

 ? 「貴方がたには判らぬのですか。人界に殉ずる決意……
     その為に、捨てねばならなかったものを。
     己の国民は子に等しいもの。子を愛さぬ女など、おりません」
 ( `ハ´) 「戯言を。国を富ますのが王。それが出来ぬならば、王たる資格なぞない」
 ? 「―― 貴方が肥やしたいのは、己の懐でしょう」

 微笑が女王の口角に登った。
 弑されようとしているとは思えぬ表情だった。
 哀れみと慈愛。静かな面持ちは、諦観を由としない。
 己の運命を受け入れる、果て無き器を思わせる ――


31 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:46:05.03 ID:0JyM8TRs0

 ? 「……東からの風吹きし時、異形を払う笛が鳴る」
 (?) 「女王様……!?」

 刹那である。
 空を埋め尽くす星々が煌き渡った。
 夜のししむらを支配する光輝が、掲げた女王の右手に収束する。

 (#`ハ´) 「この後に及んで、妖術とは小癪なりッ!!」

 あふれんばかりの光が ―― 神殿を濯いで照射する。

 ? 「さだめなき者は、東より来たりてミトラの笛を吹く」

 黄金の箒星が兆す。

 ? 「乾海に星が降り、まつろわぬ王達の宴が開かれる ――」

 黄玉から滴る光は涙のように凝り、

 ? 「そのときなべて砂の民、己がさだめを逃るべからず!」

 ―― 上方へと拡散した。


32 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:46:57.09 ID:0JyM8TRs0

 (#`ハ´) 「死ねえッ!」

 直後。奔る鋼より、叫喚する女官を庇ったのは、女王だった。
 腕輪の消沈を待たず、咄嗟に女官を引き寄せて倒れ込み、豪腕の一撃を躱す。
 だが、それまでだった。
 追いすがる男。庇うように振り上げた女王の腕へと、剣刃が噛み付く。
 飛び散る血潮と琥珀色の玉石。銀がひしゃげ、刃が肉に食い込む。
 青年が、絶叫する ――

 (´;ω;`) 「うわああああああッ!!」

 走る閃光。
 中空に生まれた火球が、青年を戒める兵へと直撃した。
 炎の大きさは拳程度でしかない。だが牽制としては十分だった。
 青年は、素早く兵の腕を振り払い ――

 (;-@∀@) 「こいつッ! いつの間に陣を! いや、発動体が――」
 (´;ω;`) 「母上――――ッ!!」

 長衣を翻し、駆ける。
 伸ばした手の先で、男の剣が、女の腕へと振り下ろされ ――


 ◇


33 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:47:29.11 ID:0JyM8TRs0


 从;;-゚从 「私は……弑された女王なのです」
 ( ゚Д゚) 「ッ……!?だって、あんたは、今ここに ―― 霊魂とでも言うつもりかゴルァ!?」
 从;;-゚从 「いいえ ―― いいえ。全ては、この腕輪の為に ……」

 言うと、女は左手を翳す。
 壊れた腕輪が再びギコの目を穿った。

 (;゚Д゚) 「ま、さか……それが……」
 从;;-゚从 「―― ……」

 沈黙がギコに応える。

 从;;-゚从 「星降る腕輪はもう ―― ありません。あるのは、壊れた殻だけ」


 ◇


34 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:48:03.73 ID:0JyM8TRs0


 (´;ω;`) 「あ…… ああ…… うわああああッ……」
 (#`ハ´) 「ふん ―― 手間を取らせおって」

 先の一撃で、腕輪より外れた黄玉が、男の足元に転がった。

 (#`ハ´) 「大河に飲まれたか。助かる訳もないが……念のためだ。河底を浚っておけい」
 (-@∀@) 「畏まりまして」
 ( `ハ´) 「さて、王子……」

 一閃。
 ―― 破砕音は、あわれなほどに軽かった。
 それが、イシスを長きに渡り支えた宝玉の、あまりに敢え無き死だった。

 ( `ハ´) 「貴方には為すべき事が山積しております。
         次代の王となり ――」

 伏した腕を掴まれ、引きずり起こされる。

 ( `ハ´) 「新たな国を造ってもらわねば!」

 哄笑が高らかに響いた。
 追従の声が豪雨と化して青年を打つ。


36 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:49:07.50 ID:0JyM8TRs0

 ( `ハ´) 「手始めに、女王付きの女官と厩番を廃しましょう。
         預言などと言う愚昧に頼る、老害どもも不要。
         そうそう …… "陛下"」

 ねっとりとした笑いだった。

 ( `ハ´) 「どうやら陛下も、あの毒婦と同じく、妖術を得意とする様子……
         "発動体"を、渡して頂きましょうか」
 (´・ω・`) 「簒奪者……! 僕を殺せ! 殺せよッ! 亡国の輩にさえずる舌はない!」
 ( `ハ´) 「チッ……」

 骨を軋ます鈍音が、響き渡る。

 ((;´゜ω゜`)) 「がふッ……」 
 ( `ハ´) 「おや、失礼。どうも耳が遠くなったようでしてね」

 青年の腹に食い込む男の爪先。

 ((;´゜ω゜`)) 「や……やめて……!」
 ( `ハ´) 「…………」

 何度も。 ―― 何度も。
 涙と涎に塗れて転がる青年が、諾して許しを乞うまで、その暴虐は止まなかった。


38 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 00:50:09.56 ID:0JyM8TRs0

 ( `ハ´) 「お持ちの杖を渡して頂きましょう」
 (´;ω;`) 「は、、発動体がなくても、、 メラごときは打てる……!」
 ( `ハ´) 「…………ほう」
 (´;ω;`) 「ッく……、ひッく…… 僕の杖は、、部屋にあるから、、 だから、、」

 ―― 殺さないで。
 震える身体を抱きしめ、嗚咽する。襟から零れ落ちた首飾りが、石畳に触れた。
 顔を上げようとしない彼を、男は嘲りと共に見つめていた。

 ( `ハ´) 「英明なるご判断、恭悦至極に存じます。さて、夜も深まってまいりました。
        お部屋まで送らせましょう ――」

 決して、逃さぬ。
 発されぬ言葉は、確かに青年の耳に届いた。

 ◇


48 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 01:12:31.62 ID:0JyM8TRs0


 ( ;ω;) 「――… ッおおおおん ……!」

 宛がわれた家屋に帰り来た途端、ブーンは咽び泣いた。
 綿布団に滑り込む。ようよう温くなる気温も気にならなかった。

 ( ;ω;) 「……うっ、、うっ、、」

 心中は千々に乱れている。目を瞑ると先の異形の姿が浮かび上がり、ブーンは益々かぶりを振った。

 ( ;ω;) 「……」

 そして ―― ギコ。
 炯々と強く、何者にも怯まぬ筈の彼へ、投げつけた自分の言葉。

 ( ω) 「知らないお……!」

 何も考えたく無かった。
 首飾りを握り締め、嗚咽の喚くままに任せる。


49 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 01:13:17.44 ID:0JyM8TRs0

 ―― 村を、出なければ良かったのかもしれない。

 ( ^ω^) 「………… カーチャン ……」

 いつでも帰って来いと、母は言っていた。
 ブーンはいつまでも私の息子だよ、と。
 例え ――

 ( ゜ω゜) 「アヒッ!!」

 煩悶は、ひやりとした手に遮られた。
 布団に潜り込んで来た小さな手が、ブーンの背を摩っていたのだ。

 ( ^ω^) 「誰だお……!」

 跳ね上げた布団の向こう。
 目を丸くして硬直していたのは、アベの庇護していた幼女だった。


54 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 01:43:30.94 ID:0JyM8TRs0

 (* ・ー・) 「……、 ……!」
 ( ^ω^) 「どうしたんだお?何か言ってくれないと……あ!」

 得たり、と頷くブーン。

 ( ^ω^) 「君、僕達の言葉が分からないお?」

 だが、幼女から帰ってきたのは否定の仕草。

 ( ^ω^) 「おっおっおっ……」
 (* ・ー・) 「……、 …………」

 ふるふると首を振り、小さな唇を指が差す。ばつ印を描く。
 次いだ指の動きで耳を差し、うんうんと頷く幼女。

 ( ^ω^) 「……」
 ( ^ω^) 「君……喋れないのかお……?」
 (* ・ー・) 「!」

 幼女の顔が華やいだ。浅黒い肌に赤味が兆す。
 そのまま布団の上によじ登ると、ブーンの傍らにぺたりと座り込む。
 黒檀のような瞳がブーンをじっと見つめていた。


56 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 01:48:20.73 ID:0JyM8TRs0

 ( ^ω^) 「……」

 何故だか居た堪れない気持ちになって、幼女から目を逸らす。
 幼女は何も言わない。ブーンの傍にいるだけだ。
 それなのに、何故、糾弾されている気になるのだろう。

 ( ^ω^) 「分かってるお……」

 ―― きっと、自分の心に、理由があるからだ。

 (* ・ー・) 「……」 
 ( ´ω`) 「あんな事、言うつもりじゃなかったんだお……」

 ( ´ω`) 「ギコは……すごいんだお……」
 ( ´ω`) 「魔物にだって負けないし、こそ泥程度なら捻っちゃうお……」
 ( ´ω`) 「……僕とは、住む世界が違うんだお……」


57 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 01:58:36.93 ID:0JyM8TRs0

 ( ´ω`) 「怖かったんだお……」
 ( ´ω`) 「……さっきだって、あんな……あんな物を見て……
        全然取り乱さないんだお。大した事じゃないって……」

 独白は長かった。
 幼女に話しかけてはいるが、それは、自分と向き会う為の作業だった。

 ( ´ω`) 「お笑いだお……」
 (* ・ー・) 「……?」
 ( ´ω`) 「僕なんかじゃ、ギコと友達になれる筈なかったんだお……」

 あの時、ギコに感じたのは憎しみだった。
 正体の知れぬ者に対しての憎悪。己の力の及ばぬ事に対しての嫉妬。
 傷つけてやりたかったのだ。

 ( ´ω`) 「最低だお……」


58 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 02:20:56.19 ID:0JyM8TRs0
 
 | "゚'` {"゚`l 「……そうでもないさ」

 耳朶を打つ声に、ブーンは飛びあがった。

 ( ^ω^) 「あ、アベさん……!」
 | "゚'` {"゚`l 「やれやれ。やっぱり刺激が強すぎたかな」

 帳を潜り、アベが室内に入って来る。手には湯気立つ杯を持っていた。

 | "゚'` {"゚`l 「どうだ、食えるか」
 ( ^ω^) 「……いや、僕は……」
 
 あんな物を見た後では、食欲が湧こう筈もない。
 杯を受け取ると一息で飲み干し、渡されたパンを貪る。

 ( ^ω^) 「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」
 | "゚'` {"゚`l 「きめえwwwwwwwwwwwwww」


59 名前:第二章 王と預言者 :2006/09/12(火) 02:21:36.21 ID:0JyM8TRs0

 | "゚'` {"゚`l 「だが、それだけ食べれれば大丈夫だろう。
         ―― 落ち着いたかい」
 ( ^ω^) 「……はいだお。アベさんにはみっともない所、見せちゃって……」
 | "゚'` {"゚`l 「なあに ―― 大した事は無い。俺にしてみれば、君の方が心配でね」
 
 木組みの椅子に腰掛け、アベは足を組んだ。

 | "゚'` {"゚`l 「聞かせてくれないか。君が何故、この砂海に来たのかを」
 ( ^ω^) 「…………」

 ( ^ω^) 「わかりましたお……」

 ブーンの重い口が開く。
 そして、ほぼ同時刻 ――
 イシスより、一頭の駱駝が、東を目指して出立した。

 (´・ω・`) 「ハッ、ハッ ……!」

 砂海を真昼の月が照らす。周囲に散る三つの星は、未だ交わらず ――
 陽光に掻き消され、寂しげに揺らぐばかりだった。

 (了)



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