( ^ω^) はあそびにんのようです
4 名前:巻頭言 :2006/08/23(水) 23:13:51.92 ID:z3R2+San0

 汝が失いしは英雄。而して嘆く事なかれ。
 そは全ての始まり。あらゆるものの兆しなれば。
 
 汝が失いしは黄金。而して嘆く事なかれ。
 そは救国の黄金。勇士の掲げし証なれば。

 汝が失いしは娘。而して嘆く事なかれ。
 そは救国の娘。勇士を癒せし杖なれば。
 
 終わりに、汝が失いしは月。而して嘆く事なかれ。
 そは終焉。終焉こそが誕生の父なれば。

 汝、得よ。全てを得よ。
 なぜなら、失う為には、まず得なければならぬからである。
 
                           ――― 託宣者


5 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:14:51.58 ID:z3R2+San0

川゚−゚) 「、、 ……!」

 クーの逡巡を察したか。
 その異形は、喜悦の咆哮を、ロマリアの空にたかだかと振るわせた。

川゚−゚) 「何故、、 ――… 」 

 異形達を戒めていた鎖が外される。
 身の内に荒れ狂っていただろう瘴気が、その身体から噴出す。
 擦り合わされる歯列が嘲笑にも似て剣士を打ちのめす。
 
川゚−゚) 「何故、こいつらがロマリアにいるのだ!!」


7 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:16:19.65 ID:z3R2+San0

 宴の開始から十日。およそ初めてクーが発した叫びは、大歓声に飲まれて消えた。
 六つ腕蠢く、骸の剣士 ――
 それが四体、クーの前に立ちはだかった。
 風雨に錆びた兜が申しわけ程度に頭骨を覆っている。
 朽ちかけた具足とは裏腹、全ての手に握られた曲刀はぬらりと怪しい表情を見せる。
 クーは王を今一度ねめつけた。
 王の変わりに彼女を見下ろしたのは、痩せ枯れた老人だった。

(・∀ ・) 「 ――… 」
( ゜_ゝ゜) 「殺せ……」

 王の右手が杯を掴む。

( ゜_ゝ゜) 「その女を殺すのだ! はらわたを引き千切り、存分に曝してやるが良い!」

 それが、合図になった。


9 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:18:30.79 ID:z3R2+San0

 からくりじみた動きで、異形がクーへと殺到する。
 左の一体が突出した。踏み込みざまに、六本の剣が宙を薙ぐ。
 クーを、刃で抱きしめるような動きであった。

 「―― … !」

 ごつん、と
 ―― 音がした。
 異形の上体が、盤に転がった。
 恥骨の上を両断されていた。
 重刃を屈みかわしたクーが、伸び上がりつつ放った一刀である。
 異形の下半身が、自分の胴へ、がらがらとかぶさってゆく。

 わっ、と観客が湧いた。
 クーの爪先がきゅるりと鳴る。
 目の前には、勢い良く飛び込んできた、もう一体。

 踏み出しは、雪を食むように柔らかかった。
 すれ違う異形と女の切っ先が交差し ――

 三本の腕を、根元から斬り飛ばされた異形が、バランスを崩して盤に叩き付けられる。
 骨が砕ける音は奇妙に軽い。
 同時、クーの左腕から鮮血が散った。


10 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:19:11.23 ID:z3R2+San0

川゚−゚) 「――… 流石に一筋縄ではいかない、な!」

 更に、クーが飛ぶ。並ぶ二体の右脇を駆け抜ける刹那、剣先を異形の首にこじ入れ、捻る。
 骸の絶叫は長かった。

川゚−゚) 「、 しまッ……!」

 その叫喚が、憎悪を凝らす呼び水になる。
 分断されたあぎとの中にあるものを、クーは見た。
 青い ――
 しらじらとした亡者だった。
 背筋を泡立たせる冷気と共に、幽鬼の怨嗟がクーを襲った。

川;゚−゚)  「、、 あ、 ぐッ ――……!」


11 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:19:47.56 ID:z3R2+San0

 凄まじいまでの嘔吐感と、悪寒が臓腑で爆発する。
 体重をすら自在に操る、剣士の足が、止まった。
 残す異形は一体。
 致命的な一瞬であった。

 仲間の死体もろとも叩き付けられた一撃が、クーを弓なりに弾き飛ばした。
 歓声が怒号と化す。

( ゜_ゝ゜) 「殺せ! 殺せ! そこな女の、血を見せよ!!」

 赤黒い顔に血管を浮き立たせ、兄王は叫ぶ。
 更なる魔物を投入すべく、排出口の柵が上がる。
 闘技場の内周へ、弓兵達が走り出る。
 ぎりぎりと弓弦が引き絞られ ――

 そして、絶叫が轟いた。


13 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:22:59.29 ID:z3R2+San0

■□■□■□■□■□■□

 鋭い金属光が真横に疾り抜ける。
 ジョルジュの腹のすぐ前の空間を両断し、ぱっくりと絶ち割った。
 連撃。
 斧の重さを感じさせぬ動きで、横に走ったと見えた刃が、宙で翻る。
 斜めに切り下ろす。
 その時には既に、カンダタの間合いになっている。

( ゚∀゚) 「――… ちぃッ!!」

 横に飛び逃げたジョルジュの髪が数本舞う。
 重量から言って、有り得ない光景だった。
 ずうん、とカンダタが踏み出す。
 ジョルジュは更に後方に下がって攻撃をかわすと、僅かに静止し――
 逆に、カンダタに向かって飛び込んだ。

( ゚∀゚) 「シィッ!」

 狙いは斧を持つ右手。
 走った拳が、まともにカンダタの手首に入る。
 普通の人間なら、武器を取り落としているところだ。
 が ――


14 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:24:41.12 ID:z3R2+San0

( ゚∀゚) (……鬼、だねえ)

 カンダタは身じろぎ一つしなかった。
 痛覚すら、失せてしまっているようであった。
 一瞬呆けたジョルジュの頭蓋を掴もうと、ぬうと鬼の手が伸びてくる。
 それを反転して躱し、次いだ動きで回し蹴りを放つ。
 痛打である。背へと叩きこまれた一撃が、漸く鬼に声を上げさせた。

 歓喜が膨れ上がり、ジョルジュの体内を縦横に吹き荒れる。
 闘いは彼をあらゆるものに変えてくれる。
 空をゆく鳥にも、地を駆く獣にも、大海にまみえる魚にも。
 
 斬る。払う。突く。打つ。

 カンダタとジョルジュの動きが激しくなり、純化する。
 ジョルジュの脳裏に光が兆す。喉が狭まり、視界が暗くなる。
 極限まで高まった集中が、ジョルジュに新たな世界を齎そうとしていた。
 その、直後 ――

( ^ω^)  「イヤッホオオオオオオオウ!! 冠を手に入れたおおおお!!」

 少年の声が、勝鬨を上げた。


16 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:26:55.12 ID:z3R2+San0

 ――… この時、彼を襲った驚愕を、ジョルジュは後になって思い出す事になる。
 遠からぬ未来、還らずの樹海にて、同じくカンダタを前にして。
 その時ほどばしる感情は、未だ彼の中に仕舞われている。
 
 今、彼を打ちのめしたのは、純粋な驚きに他ならない。

 ブーンの勝鬨と同時、鬼の目から殺気が消えた。
 カンダタを覆っているのは嘆きだった。
 
 ジョルジュの拳が僅かに下がる。構えが乱れ、隙が出来る。
 言葉は無かった。言い知れぬ虚脱感が、汗塵と共に体から立ち登るようである。

 カンダタは深淵そのものだった。
 暗く、深い、穴倉だ。カンダタ自身が虚無と化して、果て無き虚ろを垂れ流している。
 悲惨と諦観を引き連れて、亡者のように嘆いている。


17 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:28:42.85 ID:z3R2+San0

( ゚∀゚) (何故、嘆く。嘆く事など何もねえだろうが――…)

 少年達を、ジョルジュを殺し、冠など奪えばいい。
 カンダタにはそれが出来る。彼は強い。おそらく、自分よりも。
 それはジョルジュにとって、喉を掻き毟るほどの慚悔だ。
 然し、理解はできる。強きが生き、弱きが死ぬ。それは摂理だ。
 だが、カンダタは、それをしない。
 ならば彼の嘆きは冠が齎したものではない。

 何故――…

 ジョルジュの困惑をよそに、カンダタは只立ち尽くしていた。
 嘆き以外の感情を、遥か昔に失ってしまったようであった。


19 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:29:33.41 ID:z3R2+San0

 ―― 永劫にも似た沈黙を破ったのは、沈黙を齎したカンダタ自身。

( ゚∀゚) 「なッ ――…!!」

 巨躯に似合わぬ素早い動きで身を翻すと、カンダタは一気に塔の縁から身を投げた。
 僧衣の切れ端が翻る。遠く、何かの咆哮が響き ――…

( ^ω^) 「じ、自殺の瞬間を見ちゃったお!! 僕、目があっちゃったお!!」
( ゚Д゚) 「冷静に考えてそれはない。 ――… み、見ろゴルァ!」

 縁から下を覗いたギコの、視線の先。真紅の竜がロマリアの空を滑っていった。
 その背に跨るカンダタが空を仰ぐ。
 視線が絡み合う。

( ;゚Д゚) 「 ――……ッ!! 」


20 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:30:57.18 ID:z3R2+San0

 ギコの背筋が震えた。
 喰らわれる ―― そう思った。
 思わず確かめた首筋に、ふつふつと鳥肌が立っていた。
 獣の牙に咥えられた感触があった。
 己へ向けられたその感情を、どう表せば良いのか、まだギコは知らない。

 ギコの傍ら。ジョルジュは、地平に消えた竜を、いつまでも見つめていた。

( ゚∀゚) (…… 勝負はおあずけ、か。 カンダタ…… 噂とは、どうも違う男みてえだな)

 こめかみから流れる血を舐める。
 腹が空いたなと、ジョルジュは思う。
 だが、酒も飯も、この飢餓を埋める事は出来ないだろうと知っていた。


25 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:37:18.25 ID:z3R2+San0

■□■□■□■□■□■□

 篝火が天を突けよと燃え盛る。
 コロセウムを覆っていた歓声を、押さえ込んだ悲鳴は長く、泡立つ絶望を分泌していた。

( ゜_ゝ゜) 「な、な、、 お、お、、 弟者ッ!! どうして……」
(´く_`  ) 「……兄者、もうやめよう。 正直、こんな事は間違っている」
 
 コロセウムの内周を、ぐるりと囲む弓兵。
 王―― 兄王は、喉を押し上げる悲鳴を隠す事が出来なかった。

 惑乱した。狼狽した。憎悪した。

 弓兵達の放つ矢が、薙ぎ倒したのは骸だった。
 ただの一本も女を掠める事はなかった。

 何より、柵が上がり―― 魔物の変わりに現れた、そこに居るはずのない存在。
 自らが幽閉し、全てを剥奪した相手。


26 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:39:11.81 ID:z3R2+San0

 国民は息を呑んだ。
 現れた男は痩せ細り、以前の覇気はない。
 だが、己らの王を違える者がどこにいようか。

 そして、彼の頭頂に輝くあれは――

( ゜_ゝ゜) 「どうして弟者が、その冠を……!」
(´く_`  ) 「……違う、兄者。 貴方が鑑みなければならないのは、こんなものではない……」

 男はマントを翻し、コロセウムに詰め掛けた国民を仰いだ。
 王の後ろから、柵を潜り、新たに現れた者達も同じように。

(´く_`  ) 「民だ!我らロマリアの大地に生ける、全ての民だ!
        何故だ、兄者! 何故我々が、争わねばならなかったのだ!」

 黄金に輝く冠を、男は激しく打ち捨てた。
 彼こそがロマリアのもう一人の王。サスガ弟王であった。


28 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:39:56.93 ID:z3R2+San0

( ゚Д゚) 「…… クー!」
( ^ω^) 「クーーッ!!」 

 そして、闘技盤内。近寄り、肩を貸そうとする兵士を、やんわりと押し留めていた女が振り返る。

川゚−゚) 「………ブーン。ギコ……」

 沈黙は一瞬。

川゚ー゚) 「……良くやったな」

 クーが、笑った。


30 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:40:35.26 ID:z3R2+San0

( ^ω^) 「う・・・・ うおおおおおん!! よかったお!! よかったお!!」
( ゚ー゚) 「……へッ! 当たり前だろ、ゴルァ!」

 唇を曲げて見せたギコは、そのまま崩れ落ちる。
 冠を入手した後、休み無しに馬を走らせてきたのだ。
 対照的なのはブーンである。まるで今しがた寝床から飛び出したかのように、クーへとむしゃぶりついた。

( ^ω^) 「皆、クーを見に来てたんだお!!だから、弟王を助けるのは…」
川゚ー゚) 「…… そうか」

 ほぼ無傷のブーン。満身創痍のギコ。対照的な二人がおかしくもあった。
 クーは空を仰ぎ、そして、振り返る。
 彼女は見届けなければならなかった。憎み合うことになった、兄と弟のゆくさきを。


33 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:42:21.33 ID:z3R2+San0

 兄王もまた仰首し、天を見つめて.いた。
 いつから弟王を憎み始めたのか、正確に覚えている訳ではない。
 だが、おそらくは、ずっと ――
 種火は体の深くで燃えていたのだろう。遥か以前、自分と弟の差異が現れてから、すぐに。

 武に秀でている。それは、裏を返せば、学問が出来ぬと言う事だ。
 ロマリアの王達は、代々学に優れた者が多かった。
 前王 ―― 父親にしてからがそうだった。ロマリアの賢王。オルテガの旅立ちを支援し、崩御した彼。
 父の言葉が自分を打ち砕いた。

 …… 兄弟二人で国を治めよ。

 見限られたのだと、思った。


36 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:43:27.64 ID:z3R2+San0

('e')  「サスガ弟王は流石だな。疫病の発生を予期するなんて、中々できんよ」
( ∵) 「兄王はその時、異形討伐に出かけていたしなあ」

 ―― 学のできぬ兄は、弟に補佐してもらわねばならぬと言う事か。

从'ー'从 「…… ふう。あの人ったら、粗雑で困るわ」
J( ∵)し 「王妃様…… 」
从'ー'从 「こんな事、サスガ弟王の妻ならば、感じぬ事なのでしょうね」

 ―― 妻にすら認められぬ武など、何の為に持つ。


 兄王は知らない。
 彼らの話の後、必ず兄王への賞賛があった事を。
 兵は討伐の武勇を称え、妻はふるまいの勇壮を誇った事を。

 兄王は、知らなかったのだ。


38 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:45:51.31 ID:z3R2+San0

(´く_`  ) 「兄者、やりなおそう。ロマリアの智に武が合わされば、
        適わぬものなどない!そう兄者は言っていたではないか!」

 最早誰の声も、彼には届かなかった。
 耳を塞ぎ、目すら塞いで、彼は一人の老人を探していた。
 大臣。大臣だ。彼は良くやってくれた。
 己が一人、ロマリアを治める為に、尽力してくれたのは彼だ。

 兄王はぐるりを見回した。
 常に彼に寄り添い、昼夜を問わず彼に尽くしてくれた、痩せた老人は、いなかった。

( ゜_ゝ゜) 「ッ――…… !!」

 兄王は叫ぼうとした。
 だが、何を叫べばいいのか、最早彼には判らなかった。


41 名前:ロマリアの愚王編 :2006/08/23(水) 23:50:46.02 ID:z3R2+San0

 弓弦が喚く ――
 大臣の代わりに、彼の視界を覆ったものが、ロマリアの兄王が最期に見た景色となった。

 銀の鏃が、深々と、兄王の喉に突き刺さっていた。
 
( ^ω^) 「おッ・・・・・・・・・・・」
( ゚Д゚) 「・・・・・・・・・・・ッ!!」

 ゆっくりと―― ひどく、ゆっくりと、兄王は倒れた。
 コロセウムに仰臥した彼の目には、ただ驚きだけが刻まれていた。

(´く_` ;) 「あ・・・・・・・・・・・・・・・・・」

(´く_` ;) 「兄者ーーーーーーーーッ!!」

 炎が夜気に巻かれて大きく爆ぜ割れる。
 この日、ロマリアを覆っていた暗雲は晴れた。
 一人の男の命と、引き換えにであった。


 ―― 翌朝、都を出立したロマリア軍は、異形との交戦の末に見事アリアハンを救う。
 陣頭に立った王を国民は長く尊び、ロマリアの義王として称えたと言う。



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